主人公の高原裕貴は大学4年の男子学生ですが、2月に卒業試験が終わり、卒業が間近になったある日、就職が内定しているD製薬から、一通の封筒が届きました。
彼女とのデートの約束に遅れそうだったので、その封筒をポケットにねじ込んで約束のレストランに到着。
「あら、その封筒、D製薬からじゃない?」 彼女のお父さんがD製薬の専務で、裕貴はそのコネで就職内定したので、彼女には頭が上がりません。
その封筒の中身は・・・内定取り消し通知!!!
驚いてD製薬の人事部に電話をかけたところ「戸籍が女性なのに性別を偽って応募しては困りますね。」と言われたのです。
「そんなの何かの間違いに決まってる。戸籍謄本を見ればわかるでしょ。」ということで、彼女と一緒に戸籍謄本を取りに行ったところ、自分の戸籍が2年前に女性に変更され、しかも叔父さんの奥さんになっていたのでした。
いろいろあった挙句、1週間だけ叔父さんの妻として女装して暮らすことになります。
ここまでは面白バカバカしい話で、ドキドキしながら楽しく読み進むのですが、その後が衝撃的。2年前に焼身自殺したお父さんから高原裕貴にあてた手紙が届き、そこには驚愕の事実が書かれていたのです・・・・・
これがその小説です。
「性転のへきれき」シリーズについては以前本サイトで書いたことがありますが、性転換小説の草分け的存在です。Amazonに書かれた説明によると1998年から2003年にかけて5作が公開されています。
この「ユキの場合・よじれた戸籍」は前作から11年ぶりの新作ということになります。
私が初めて性転のへきれきと出会ったのは中学2年生の時です。私は小さい時から、女の子になりたい、どうして自分は男なのだろうか、という悩みに心を痛めてきました。金八先生で上戸彩が鶴本直という性同一性障害の少女(FTM)を演じた時はまだ小学校低学年だったので、意味がよくわかっていませんでした。
性転のへきれきを読むと、著者の桜沢ゆうさんが私と同じ苦しみを背負ってきた方なのだということはすぐにわかりました。
自分が性同一性障害であり、性同一性障害とは何なのか、桜沢ゆうさんの小説を読んで明確に認識してしまったという方が正しいかも知れません。
もし桜沢ゆうさんの小説に出会っていなかったら、私はもう少し軽傷のまま、人知れぬ悩みを持った普通の男性として一生を送ることができたかも知れません。
性転のへきれきが、ネット上に氾濫している沢山のTSノベルと違う点は、朝起きていたらオッパイがあったとか、魔法の薬を飲むと女の子になったとか、機械装置に座ってオーム真理教のようなヘッドギアをつないでスイッチを入れたら隣の女性と入れ替わったとか、夢のような性転換が決して起きないということです。
男性が女性になるには、脱毛、女性ホルモン、手術と、一歩一歩進んでいかなければ、決して何も変わらないという現実を見つめた小説です。
ですから、性転のへきれきに感化されると、「自分も一歩踏み出さないと何も変わらないんだ!」という前向きな気持ちで、具体的行動(女性ホルモンとか)に踏み切る気持ちになれるのです。ということは、ある意味で、危険な小説と言えるかもしれませんね。
「ユキの場合・よじれた戸籍」はかなりの長編で、読むのに数時間かかります。(私は、ネットの連載で約4分の3読んでいるので、1~2時間で読みましたが、また何度もじっくり読みふけりたいです。)
同人の評論にも書かれていましたが、前作までと違うのは、主人公の物の味方や性感がすっかり女性の立場になってしまったことです。桜沢ゆうさんが完全性転換したのは2009年ごろと言われていますので、それは当然かも知れません。
前作までは、性交シーンはサラリとした感じで、アダルトな描写は殆ど無かったという印象ですが、ユキの場合は、特にレズセックスの描写が濃厚で、女流エロ小説みたいな部分もあります。
特に最後に女性(サド系)、性同一性障害MTF(玉ナシ竿アリ)、完全性転換MTF女性の3人が絡む性交シーン(いわゆる3P)は、精細濃厚で心理描写にも臨場感がありました。私のようなTSだけでなく、一般ノーマル(男性・女性)の方にとっても価値があると思いました。
一般男性の方は、AVで女性と完全性転換ニューハーフが絡んでいるところを見ても、「純女と純女のレズ vs. 純女とニューハーフのレズ」が、演じているAV女優の気持ちや性感がどう違うのか、理解できないのではないでしょうか。この小説の第40章の3Pシーンを読むと、「完全性転換ニューハーフが、玉ナシ・竿アリのニューハーフに犯される時には、こんな風に感じているのか!」と初めてご理解いただけるかも知れません。
TS-Video.comでニューハーフ動画を見られる方は、「ユキの場合・よじれた戸籍」を読めば、AV女優の心理や性感が理解できるようになって、感情移入の度合いが上がり、倍楽しめるかも知れませんね!